今やファッションとして日常に根付いているグラミチだが、ルーツは紛れもなくクライミングにある。それは、1970年代に“ストーンマスター”と呼ばれた伝説的ロッククライマー、マイク・グラハムによるクライミングパンツに端を発するブランドだからだ。本連載では、クライミングに心を掴まれたクライマーたちのメンタリティやライフスタイル、クライミングとの向き合い方に迫る。改めてグラミチの原点を辿る道標には、図らずも今を生き抜くエッセンスが内包されていた。
影山友哉
影山友哉
NAME
影山友哉
TITLE
モデル
AREA
下仁田ボルダー
PROFILE
1989年生まれ。静岡県富士市出身。雑誌や広告など、さまざまなメディアで活躍するモデル(BARKinSTYLe所属)にして、ときにはロックトリップを優先することもあるボルダリングフリーク。筋肉痛でガチガチの体をほぐしてから、撮影現場へ向かうのがルーティン。
岩場と対峙する真剣な眼差しだけ見ると、クライミングを生業としている人と見紛うが、影山さんの職業はモデル。だが、「四六時中、クライミングのことばかり考えています」と聞けば、あながち間違いではないのかもしれない。影山さんにとって、必要不可欠な存在となったクライミングとの出会いから、この先の展望まで伺った。
―――クライミングとはどのようにして出会ったんですか?

5年ほど前に、モデル仲間に誘ってもらって渋谷のボルダリングジム「NOBOROCK」に通うようになりました。それまでも、彼と半年に1回くらいの頻度でジムに行っていたんですが、久しぶりに一緒にやると、知らない間に彼がめちゃくちゃ強くなってて。そのとき“悔しいなって、負けなくないな”って感情が芽生えたのが本格的に始めたきっかけですね。
それから仲間と一緒に行く以外に、隠れて一人で練習するように。最初のころは週に1回くらいのペースだったんですけど、今では週3でジムに通ってますね。

―――仲間と切磋琢磨する感じ、いいですね。学生時代も何かスポーツはしていたんですか?

兄の影響で、小学から大学の途中まで、陸上の長距離種目をやっていました。高校生のときは、3000m障害というマイナーな種目の選手でしたね。

―――陸上部だったんですね。確かに、個人競技という意味ではクライミングに通ずる部分もありますね。

そうですね。一人で打ち込むのが好きだったので、クライミングは性に合っていたのかもしれません。

―――ジム通いを始めてから、岩場デビューを果たしたのはいつですか?

始めて1年半くらいのタイミングで、御岳ボルダーに行きました。

―――初めて岩場を登ったときのこと、覚えてますか?

正直、めちゃくちゃ怖かったですね。ジムだと、厚いマットが下に敷いてあってホールドに色がついてるじゃないですか? 当たり前なんですけど、マットも薄いし、岩場だとホールドに色がついているわけでも目印があるわけでもない。だから、ジムで3級を登れたからといって、岩場の3級を登れるかといえば、そうじゃなく、全くの別物なんだって気づきました。1メートルくらい登っただけで、足がすくんで、本当に何もできないまま帰った記憶があります。
―――恐怖心が芽生えたんですね。でも、辞めることなかったと。

怖さとか悔しさが押し寄せる一方、ワクワクする感覚のほうが自分のなかで優ったというか。それから、なるべく岩場に近いトレーニングができるジムを探すようになり、今は新宿の「BETA」が主な練習場になっています。「BETA」はホールドが小さく、岩場で必要な保持力を養うのに適していて、実際レベルも上がりましたね。
―――影山さんにとってクライミングの魅力ってどこにありますか?

「ヨッシャ!」って心のなかだけじゃなく、実際声に出すくらいの瞬間に出会えるところかな。大人になって、なかなかそういう感覚になることって少ないと思うんです。また、そこに至るまでに、同じ課題を7日間くらい繰り返して、できるようになるというプロセスも大人にとっては新鮮な気がしていて。
後は、周りのみんなが喜んでくれるのがいいですね。たとえ、自分が登れなくても応援し合うカルチャーみたいなのものがあって。そんなハッピーな空気感も、大好きですね。
―――下仁田ボルダーにはよく来るんですか?

これまでに5回ほど来てますね。都内からだと車で2~3時間程度で比較的アクセスがいいですし、初級から中級くらいまでの方が楽しめる課題が揃っているので。

―――課題の距離感も近いですね。

そうなんです。人もそんなに多くないですし、こじんまりとしていて、ゆっくりできるところが僕は結構好きで。大体4~5人くらいで朝8時頃に着いて、登って食べて寝て、また登る、みたいな感じで日が暮れるまでいるのがお決まりの過ごし方ですね。

―――確かに、川のせせらぎが聞こえて来たり、時間がスローに感じられます。岩の特徴などはどうでしょうか?

ここは流紋岩なんですが、適度にフリクションがあってホールドを掴みやすいように感じます。川沿いの岩場ってもっと滑るイメージがあるので。また、下地は砂なのでクッション性もありますし、割りとフラットなので、そこも比較的初心者が安心して登れるポイントなのかなって。岩場デビューしたいと思っている方がいたら、本当におすすめですね。
―――グラミチを知ったきっかけをお聞きしたいです。

アパレルで働いていた経験もあるので、その当時自然と知った感じです。山というよりはシティのイメージが強かったです。

―――ご自身も街で穿いていますか?

僕は学生時代、雑誌の「CHOKI CHOKI」や「TUNE」で育ったので街で着る服は割とパンチがあるものが好きで(笑)。なので、グラミチは岩場で愛用することが多いんです。今日穿いてるグラミチパンツも“ソフトピンク”って色なんですけど、山だとよりファッショナブルに見えるので気に入ってますね。後はサミットカーゴパンツも、ワイドなシルエットが好きでよく穿いてます。

―――実際岩場で着用していて、感想等あれば教えてください。

本当に何の違和感もなく、お洒落にも穿けるので最高ですね。ジムでは化繊のパンツを穿くこともあるんですが、岩場だとやっぱり擦れが気になるので、グラミチのコットン製のパンツは安心感が抜群ですね。
―――モデルの仕事を始めたきっかけはなんだったんですか?

もともと洋服に興味があって、先ほどお伝えしたようにアパレルで働いていたんです。当時「FACETASM」というブランドが好きで、たまたまそのデザイナーの落合さんと話す機会があり、縁あって「FACETASM」をインターン的な感じで手伝うようになりました。その際「HYPEBEAST」の特集で、「FACETASM」のモデルとして協力させて頂いたのがきっかけですね。そこから、大好きだった洋服店「GARDEN」に勤務した後、現在所属しているモデル事務所「BARKinSTYLe」に所属しました。

―――クライミングで培った経験が、モデル業に活きていると感じることがあれば教えてください。

コミュニケーション能力ですね。職業柄、初対面の人が多く、その方達と1から物事を作り上げていくうえで“話すこと”は非常に重要なんです。積極的に話しかけるタイプではないんですが、クライミングを始めてから岩場で出会った人と課題の話をしたり、応援し合ったりすることで、自然と“話すこと”が昔より好きになりました。
後は、集中力。岩場は危険が伴うので、一瞬一瞬にフォーカスしないといけません。そのことが、モデルの仕事でシャッターを切られる瞬間などに活きているように感じます。
―――岩場に行った翌日の撮影だと、筋肉痛で体が動かなかったりしませんか?(笑)

現場に入る前に、めちゃくちゃストレッチして体をほぐしてから行きますね(笑)。でも、お蔭で体をメンテナンスする意識も高まったので、肉体的な面でもクライミングの恩恵を受けているかもしれません。
―――これからクライミングを始めてみたいという方に、何かアドバイスはありますか?

傍から見れば、ハードルが高いと思われがちなんですが、例えば海外だとフィットネス感覚でやっている人もいますし、60歳くらいの方も楽しんでいるので、“やってみたらそんな堅苦しものじゃないんだよ”ってまずは知ってほしいですね。
“上手くないとダメ!”みたいなことも全くないので、家から近いジムを探してまずは行ってみてください。楽しくやるのが一番だし、それが許容されるのがクライミングの醍醐味だと思うので。僕もやり始めたのは30歳くらいですし、いつからでも始められるのも、魅力なんじゃないかな。多分、おじいちゃんになっても、やってますね(笑)。

―――最後に、これから挑戦してみたいことがあれば教えてください。

コミュニティというか、チームみたいなものって日本ではまだそこまでカルチャーとして浸透していないと思うので、自分がデザインしたTシャツを仲間で着て、SNS等で岩場の動画を発信したりしながら、自分達のクライミングスタイルを表現していきたいです。
また、モデルを生業としているので、このGRABの企画のように、被写体としてクライミングの仕事をどんどんやっていけたらいいなと思っています。
Photo:Tetsuo Kashiwada(NewColor inc.)

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