


杉本学子 / スタイリスト
文化服装学院卒業後スタイリスト祐真朋樹氏のアシスタントを経て独立。 広告や雑誌、映像作品を中心に活動。
ー 『冬のなんかさ、春のなんかね』、毎週欠かさずに観ていました。
杉本:ありがとうございます(笑)。終わってしまって寂しいですね。
ー 杉本さんは、同作の中で杉咲花さんが演じる土田文菜のスタイリングを担当されていましたが、映像作品、たとえばドラマや映画の登場人物のスタイリングって、どのように組み立てていくものなんですか?
杉本:まずは監督さんやプロデューサーさんと、その人物がどのような生活をしていて、何を大事にしているのか、などの人物像を詰めていくことが多いですね。

ー それはたとえば、どこに住んでいるか、など?
杉本:そうですそうです。街ごとになんとなく人の服装って違うじゃないですか。
ー 分かります。
杉本:そういう意味で、その人物がどこに住んでいるのかって、意外と大事だったりして。たとえば三鷹に住んでいる人と三軒茶屋に住んでいる人とでは、ファッションとの接し方が少し違ったりする。もちろんごく個人的な偏見も含まれているんですけど(笑)。
ー (笑)。でも、確実にありますよね。
杉本:下北沢に住んでいる人と学芸大学に住んでいる人とでも、距離は近いけれどちょっと違ったり。下北沢のほうがもう少しカルチャー寄りというか、古着の割合が多そう、お酒とかも好きそう。学芸大学の人はもう少し好みがモダンで、古着も好きだけど一点取り入れる程度で、家具やコーヒーも好きそう、みたいな(笑)。その人の生活の中で、ファッション以外に何を大事にしているのかなども考えながら、キャラクターを掘り下げていきます。出身地なんかもそうですね。たとえば九州出身だったら、靴が好きそうだよね、とか。
ー 登場人物たちの、作中で描かれていないプロフィール部分の解像度を高めていくんですね。
杉本:そうですね。今回の杉咲花さんの役で言うと、土田文菜は小説家としても活動していて、古着屋でもアルバイトしているけれど、古着屋として独立したいわけではない。あくまで古着屋はバイト先。古着も好きだけれど、そもそも洋服が好き。だったらHYKEやAURALEEなど現行のドメスティックブランドと古着をミックスして着ているのが自然じゃないかなって思ったんです。働く場所も、高円寺や下北沢の古着屋ではなくて、中目黒にある古着屋、という設定にしていて、そのあたりで少しカルチャーの違いを出そう、という話は、今泉監督を中心に、杉咲さんご本人やスタッフも交えて、かなり念入りに突き詰めていきました。

ー なるほど。実在していそうなリアリティがありました。そうやって人物像からファッションを組み立てるにあたって、杉本さん自身にかなり多くのストックが必要ですよね。いろんな人を見て、この場所に住んでいる人はこういう服装をしている、というような観察の蓄積が必要になるというか。
杉本:そうですね。そもそも、そういったことを考えるのが好きなんですよね。
ー それは日々リサーチされているんですか?
杉本:意識して行動しているわけではないのですが、休みがあればいろんな場所に足を運びますし、話題になっているスポットがあればリサーチにも行きます。本もたくさん読むし、雑誌も見るし、映画や映像作品もたくさん観ますね。
ー 「こういう人、いそう」というリアリティも大事だけれど、一方で、リアリティはありつつも実際よりも少しの派手さ、華やかさをプラスすることも、ドラマでは大事なのかなと想像していました。ドラマだからこそ、少しだけ演出された見え方の服を着せる必要な時もあるのかなと。
杉本:ドラマや映画で洋服を担当する人には、「衣装部」と呼ばれるスペシャリストがいます。衣装部のリアリティの表現とその追求の仕方は本当に勉強になります。一方で、スタイリストの私にスタイリングの依頼をいただき、作品に関わっているので、リアリティは大事にしながらも、少しだけ装飾を加えたい気持ちがあります。作品を観ている人が「こういうコーディネートをしてみたいな」と思ってくれるような、リアルだけどほんの少しだけ楽しくて、トキメキがあるスタイリングを目指しています。

ー 杉本さんのスタイリングは、メンズアイテムを上手に取り入れている印象がありました。
杉本:スタイリストを志した10代の頃から、とにかくメンズファッションが好きだったんです。当時っていわゆる裏原ブームで、藤原ヒロシさんやNIGO®さんをはじめ、雑誌を中心としたカルチャーがすごく盛り上がっていて、雑誌の情報がすべてだった私にとってファッションの入り口はメンズファッションだったし、今は世の中のファッションのスタイルもユニセックスのスタイルがスタンダードですよね。
ー 確かにそうですね。
杉本:ただ、私がスタイリストとしてメンズファッションをやりたいと思った一番の理由でもあるんですけど、かなり乱暴な言い方になってしまいますが、自身の経験則として……レディースファッションは、バッグやシューズに重心があり、服はトレンドに合わせてどんどんクローゼットの中を入れ替えていく、という考え方が提唱されている感覚があるんです。もちろん例外はありますが。
ー そういう話は聞いたことがありますね。
杉本:一方でメンズは、そもそもアイテム数が少ないし、毎年トレンドが大きく変わるわけでもない。限られたアイテムカテゴリーのなかで、どのようにコーディネートに変化を加えるか、どう積み重ねていくか、という世界なんですよね。男性って同じアイテムを色違いで買ったりもするし、クラシックなものが好きな人も少なくないし、洋服をコレクションしていく感覚が強い。私は、ファッションを仕事にするなら、消費されるものよりもコレクションされていくものが良いと思って、メンズファッションから始めたんです。だから、メンズのアイテムをどうやってレディースファッションに落とし込むか、という発想はすごく好きで、この考え方は自身の仕事にも活きていると思います。
ー なるほど、面白いですね。
杉本:最近は土田文菜みたいに、メンズのアイテムを積極的かつ上手に取り入れている人たちも多く見かけるし、みんな情報も早くて、いろいろなことを知っていますよね。新しいブランドにもすごく詳しい。
ー ちなみに、ご自身のクローゼットもメンズライクなものが多い?
杉本:そうですね。長く所持しているものはメンズのアイテムも多いですし、黒やグレー、ネイビー、ブラウン などすごくベーシックなものばかりです。その反動か、不意にカラフルなアイテムを衝動買いしてしまったり、お仕事でコーディネートを作るときに気が付いたらカラフルになってしまっていることも多いです(笑)。

ー ちなみに、今日穿いていらっしゃるのはGramicciとN.HOOLYWOODとのコラボレーションモデルでメンズのアイテムですが、以前からさまざまな場面でGramicciを取り入れてくださっているそうですね。
杉本:自分でも穿きますし、CMや映像作品の衣装として購入させていただくこともありますよ。
ー 衣装としてGramicciをセレクトするとき、その人物像としてはやっぱり、クライミングやアウトドアに親しんでいるような人になることが多いんですか?
杉本:そうですね。やっぱり“アクティブな人”というイメージをつくるときに選ぶことが多いです。大人で、ちゃんと趣味を持っていて、少し遊び心のある人。そういう人物像に合わせたくなるブランドですね。

ー 人って思っている以上に、ブランドのロゴや、ブランドイメージから影響を受けているところがありますよね。
杉本:そうですね。Gramicciのような、用途がはっきりしていて、それゆえにカルチャーがあるブランドは特にそういった部分があるように感じます。Gramicciって「これでいいや」じゃなくて、「これがいい」って選ばれることが多いと思うんですよね。何かしらの理由や目的を持って選ぶ人が多いんだろうなって。
ー この世にパンツはたくさんあれど、そのなかから選んでいただいているわけですからね。
杉本:“選ぶ”行為には、ちゃんと理由が伴うべきで、その理由がその人のストーリーになっていくんですよね。人生って一回しかないし、私はそういうふうに自分のものさしで物事を選んでいきたい。食事だって、ただお腹を満たすためだけではなくて、「これがいいね」と思って選んだものを食べたい。洋服も、それ以外のものも、全部そうですよね。
ー ブランドのカルチャーや背景を知っていたら、“選ぶ”こともしやすくなるのかな、と思ったりします。
杉本:そうそう、これまでの『Stance』のインタビューも拝見したんですが、たとえばKYNEさんが制作のときに穿いているのって、きっとあらゆる意味でストレスがないからですよね。それって単に着心地が良いとか、歩きやすいとか、それだけではなくて、自分の精神がちゃんとフィットしているからだと思うんです。
ー すごくわかります。着心地うんぬん以前に、愛着のないものを身に付けていると、視界に入るだけでちょっとストレス、みたいなこともありますもんね。
杉本:ありますよね。ファッションってただの洋服かもしれないけれど、自分のなかでコーディネートがうまく決まった日は、一日気分がいいじゃないですか。逆も然りですけど(笑)。

ー たしかに。
杉本:「今日はこの服だからイケる気がする」とか、「今日の自分、いいな」と思えるのって、すごく良いことじゃないですか。ファッションのトキメキや楽しさって、結局はそういうところなんじゃないかと思うんです。今この瞬間の自分のモチベーションを上げてくれるもの、というか。
ー わかります。気に入った洋服を身につけていると、「今日はいい感じだな」って思えますよね。
杉本:だからやっぱり、自分で好きなものを選んで着ることってすごく大事なんですよね。役者さんの洋服を選ぶときも、その人が気持ちよく演技できるように、ちょっとでも本人が「いい感じだな」と思えるスタイリングをしたいなと思っています。

ー 何を着ているかは、演技にも当然影響してきますよね。
杉本:もちろんそうですね。一番大事なのは監督と役者さんに納得して服を着てもらうことです。
ー ところで、杉本さんのお仕事って、実在しない人物の趣味や思考、好みを想像しながら、「この人ならこういう服を着る」「こういうものを選ぶ」と組み立てていくわけで、それってすごく丁寧なプロセスだと思うんですけど、一方で、世の中には服をもっとラフに、適当に着る人もいますよね。人はみんな、もっとちゃんと自分が着るものを選んだほうがいい、と感じたりしますか?
杉本:スタイリストとしては「ちゃんと選んで、ちゃんと着るのも楽しいよ!」と言いたい気持ちはあります (笑)。でも、私もラフすぎる日もあるし、やっぱりそこに注ぐ熱量は本当に人それぞれなんですよね。スティーブ・ジョブズのように、毎日着るものを選ぶことにストレスを感じて、そこにエネルギーを使いたくないからほとんど同じ服しか着ない人だっている。一方で、1時間でも2時間でもかけて選ぶのが好きな人もいる。何センチ、何ミリ単位で合わせながら、何度もフィッティングするのが楽しい人もいますよね。だから、そこは本当に人それぞれだと思います。ただ、もし相談されたら、一緒に悩みたいし、一緒に考えることを楽しみたいですね。
