今やファッションとして日常に根付いているグラミチだが、ルーツは紛れもなくクライミングにある。それは、1970年代に“ストーンマスター”と呼ばれた伝説的ロッククライマー、マイク・グラハムによるクライミングパンツに端を発するブランドだからだ。本連載では、クライミングに心を掴まれたクライマーたちのメンタリティやライフスタイル、クライミングとの向き合い方に迫る。改めてグラミチの原点を辿る道標には、図らずも今を生き抜くエッセンスが内包されていた。
徳盛イバン
徳盛イバン
NAME
徳盛イバン
TITLE
eyeCandy 創業者
AREA
eyeCandy アトリエ
PROFILE
1976年生まれ。ペルー出身。チョークバッグをはじめ、クライミングに纏わるバッグ類を奥さんと二人でオールハンドメイドによって作り続けるeyeCandyの創業者。氏の作るバッグを待ち望むファンは、国内外問わず増え続けている。
登る人だけでなく、その背後から応援する人にも楽しんでもらいたい。そんな想いから名付けられたクライミングバッグブランドがeyeCandyだ。機能的でありつつ、和柄やプリント柄など目が喜ぶチョークバッグが代表作で、それらはすべてイバンさんの自宅2階に設けられたアトリエで生まれる。クライミングにギアという視点から彩を添えるイバンさん。子供のように目を輝かせながら、自らの活動を語るその姿こそが、eyecandyそのものだった。
―――クライミングを始めたきっかけは何ですか?

ペルーの大学に入学したとき、丁度その大学内でクライミングブームが起こっていたんです。当時、山登りは盛んではあったものの、クライミングをそこまでやっている人はいなかったので、とてもマニアックな文化でした。大学の構内に8メートルくらいのコンクリートの垂壁があったんですが、そこに先輩が手作りのウォールを取り付けて登っているのを目にしたのが、クライミングとの出会い。
最初は、ちらちら見ているだけだったんですが、誰もいないときにこっそり登ってみたんです。すると、めちゃくちゃ楽しくて! その後、先輩に声を掛けてもらい、それから毎日のように登るようになりました。山へロープクライミングに連れて行ってもらったり、その先輩との出会いが無ければ、これほどクライミングにのめり込むことはなかったかもしれません。
―――日本へ来たのは大学を卒業してからですか?

そうですね。仕事の兼ね合いで、たまたま御岳の近くの青梅に住むことに。もちろん、来たばっかりのときは御岳が有名なボルダリングエリアだと知らなかったんですが、知り合いから教えてもらって。気づけばコンパクトなクラッシュパッドを背負って、原チャで毎週通うようになっていました(笑)。

―――クライミングとの良縁を感じますね。ペルーと日本で、クライミングとの関わり方は変わりましたか?

ペルーで登っていたときは、ジムもなければギアやシューズも選択肢が少なく、海外に頼むしか方法がなかった。とにかくギアへのアクセスが悪くて。チョークがなくなったら、そこら辺の砂で代用したりして、とにかく不便でした。それが、日本ではジムもあればクライミングショップもすぐ近くにあり、何でもすぐ買えるじゃん!って、めちゃくちゃ感動したんです。環境が360度変わって、よりハマっていきましたね。

―――やはり印象に残っているのはエリアは、御岳でしょうか?

御岳もそうですが、その近くに鳩ノ巣というエリアがあって、そこの岩場をいくつか仲間と開拓したんです。初登の課題もあるので印象に残っていますね。

―――今も岩場にはよく行かれるんですか?

お蔭様でeyeCandyの仕事が忙しく、なかなか岩場へは行けない状況が続いています。それでも、週に数回程度はジムに行くようにしています。

―――イバンさんにとってクライミングとは、どういった存在か教えてください。

ライフスタイルそのものですかね。クライミングなしの人生は考えられない。自宅の壁にも、クライミングウォールがあるくらいですしね(笑)。
―――チョークバッグを作り始めた経緯について教えてください。

日本に来て、ギアのアクセスが格段に上がったのですが、なんというか気分がアガるものが少なかったんです。しかし、Kriegというアメリカのブランドは、花柄や動物柄を用いていて異彩を放っていた。よく愛用していたんですが、次第に“和柄とかだったら面白いんじゃないか”と思うようになって。もちろん、裁縫とかはやったことはなかったんですけどやってみようと。

――カバン作りを一から始めるとなると、躊躇しそうな気もしますが。

父親が家具大工で、自宅でモノを作ることが日常だったんです。小さいころからその姿を目の当たりにしていたので、作りたいものがあれば自分で作ってみようと思えたのかもしれません。
―――一番最初に作ったチョークバッグはもちろん和柄?

そう! 仲間と開拓した鳩ノ巣の公開イベントの際に、いくつか作ってプレゼント的な感じで持参しました。一番大きかったのは、山梨の「ピラニア」というジムのオーナーさんがそれを見て、「うちのジムに置かせてほしい」と言ってくれたこと。それから口コミを通して徐々に広がっていった感じです。

―――それはとても嬉しいですね。そこからは一日どれくらい作るようになっていったんですか?

夢中になってしまうので、気づけば夜中の4時になっていることもしょっちゅうありました。一日4個作れたらやったー!って感じかな。20個くらいたまったら、卸先さんに持っていくのですが、「全部もらっていいですか?」って言われると、“せっかくここまでためたのに”ってちょっと悲しくなったりして。

―――そっちなんですね!
今思えば、そのときまだ商売をしているという感覚が薄かったんだと思います。ただ、誰かが喜んでくれることがモチベーションでしたね。

―――eyeCandyというブランド名の由来について教えてください。

登っている人はもちろん登ることに夢中になる。ただ、もしその人がキャッチーなチョークバッグを使っていたとしたら……って考えたんです。そして、それを後ろで応援している人が見て、楽しい気分になる。そうするとボルダリングがもっと華やかになるんじゃないかなって。もちろん使い勝手がいいのは前提ですが、それを見る人も同時にテンションが上がると最高だなって。
もともとは、好きな音楽を意味するearcandyという言葉があって、好きな絵とか好きな映画という意味で、eyecandyもスラング的に存在する言葉です。
―――グラミチの印象について教えてください。

昔の写真を見返してみると、ほとんどグラミチなんですよね! それこそ当時、周りの仲間はみんな穿いてましたね。当時、新宿のオッシュマンズに結構グラミチが置いてあって毎月行ってました。グラミチはめったに安くならないんですけど、ごく稀に安くなるときがあって、じつはそれを狙ってました(笑)。

―――ありがとうございます。特にお気に入りのパンツはありましたか?

全部かな(笑)。岩場に行くときは化繊のパンツを愛用していたんですが、僕の勝負服でした。お尻が破けても当て生地をして、ミシンで縫ってアレンジを加えてずっと穿いていました。一番テンションが上がるし、気合いも入るんです。普段着としても夏場はショーツ、冬場は厚手のコットン生地のパンツと春夏秋冬グラミチ。大好きですね!
―――バッグ作りへコダワリを教えてください。

まずは生地選びです。eyeCandyを始めた当初は、日暮里の繊維街に入り浸っていました。レコードショップでレコードを掘るみたいに、一日中ありとあらゆる生地を片っ端から探してピックアップしていました。

―――自宅の2階がアトリエになっていますが、ここですべての工程を行っているのですか?

妻と二人で作業しています。パターン作成や生地のカッティングから縫製、仕上げまでこの場所でeyeCandyは生まれます。

―――一番好きな工程があれば知りたいです。

やはり、一番最後の工程ですかね。バッグの口部分のテープを縫製する箇所なんですが、気持ちも引き締まりますし、全体のバランスを見ながら想いが込み上げてきます。
―――チョークバッグだけでなく、かなりの種類がありますね!

今は20種類以上くらいですかね。チョークバッグでも腰用とボルダー用でそれぞれ大小など含めると10種類以上あり、シューズバッグやそれを収納できる大きめのバックパックも作っています。そういえば、デュアルという2種類の粉を同時に収納できるマニアックなチョークバッグも作っていました。岩質やその日の気候によってチョークを使い分けられるので、未だにお問い合わせを頂きます。

―――今は作っていないんですね。

そうなんですよ。でも、オーダーを受けているので、相談してもらえれば出来る範囲でやらせて頂いています。クライマーって皆違うし、ギアの使い方も千差万別。例えば、防水生地にしたいとか、長さを調整したいとか。なので、既存の製品だけなく相談して頂ければ、オーダーという形で最大限お客様の希望を叶えられるよう努力しようと思っています。
―――これからのビジョンをお聞きしたいです。

注文を頂く量が増えたとしても、変わらずハンドメイドを貫き続けたい。10年以上前に作ったチョークバッグを未だに使っている人に出会うと、こっちが“eyeCandy!”ってなるし、愛用頂く方にはこれからも喜んでもらいたいので。ただ、出来る範囲で少しでも多くの方に届けたいので、来年以降には小さい工房を設けて、妻ともう一人信頼できる仲間がいれば3人体制にしたいという想いもあります。

―――イバンさんをバッグ作りへ導くモチベーションとは?

とにかく作ることが大好き。そして、たくさんの笑顔を届けたい。
そう思うと、毎日毎日、新しいアイデアが浮かんでくるんです。
Photo:Kanta Nakamura(NewColor inc)

ARCHIVES

このページの先頭へ