


横浜・元町のスケートボードショップ。2020年に開業。国内外のスケートブランドのアパレル、アイテムを取り揃えるほか、オリジナルアパレルの制作、クルーとしてのビデオ制作にも意欲的に取り組む。店主のAtomさんは生まれも育ちも横浜。Instagram @_laugstore_
ー スケートショップって、いわゆるセレクトショップとビジネス的には近しいことをやりつつも、ちょっと雰囲気が異なりますよね。
Atom:そうですね。僕らのお店もオリジナルのアパレルやグッズのほかに、スケートブランドのデッキやツール、グローバルブランドのアパレルやグッズなんかも置いてあって、そういう意味ではセレクトはしていますが、売り上げを立てるために流行をキャッチして店頭に並べる、というよりは、教育や宗教に近い感覚というか。
ー と言いますと。
Atom:スケートショップは自分たちのローカルを大切にして、ローカルで生まれたクリエイティブなカルチャーやシーンを普及していくためのスペースだと僕らは考えています。とはいえ業態としては小売なので、あれこれ仕入れたなかで正直売りにくいものとかもあるんですけど(笑)、そういうものをシビアに弾いて、シーズンごとに新しいものを提案、みたいなビジネスライクな在り方ではないですね。もちろんそういう在り方も立派だし、否定的な考えはないんですけど。僕らにはそれはできないかなって感じです。

ー 店内を見渡すと、見たことがないブランドのアイテムも多いですね。海外のブランドもちらほらと。
Atom:日本のブランドのもの以外だとヨーロッパのブランドが多めではありますが、基本的には国内外問わず、直接コンタクトを取ってくれた人たちが作っているものを置いています。あとは、スケートと関係していなくてもなんとなく「横浜っぽいな」って感じたものとかも置いていて、やっぱりここ(横浜)が地元なので、そういうノリみたいなものも大事にしたいんですよね。

ー 雑多なようで、まとまりも感じます。
Atom:明確な基準みたいなものはないんですけどね。気にしているのは作り手と会って話したことがあるか、一緒に滑ったことがあるか、くらいです。何かしらのフックがないと僕らもお客さんに紹介しにくくて。

ー そのなかにGramicciのアイテムがあるのは、少し意外というか。
Atom:これは僕の個人的な考えですけど、正直、LAUGみたいな小さなお店だと、メジャーなブランドのものを置くことはすごく気を使うんですよ。いわゆるステレオタイプなスケートショップって、マニアックなブランドのものを置きがちだったりして、お客さんたちもそういうものを求めているところがあるので。それでも僕らは、共感できるものだったらメジャーなものも取り入れていきたいと思っています。
ー 共感できるもの。共感できないものもあるってことですね。
Atom:ストリートやスケートのカルチャーにおいて、一躍メジャーになると、途端に節操がないコラボとか打ち出し方とかをするじゃないですか。あれ、勝手ながらがっかりしちゃったりするんですよ(笑)。
ー よく分かります。
Atom:ビジネスに走りすぎて、ブランド本来のルーツを蔑ろにしているようにも見えてしまって、それだと元も子もないよなぁ、と感じます。もちろんビジネスだし、仕方がない部分があることも理解しています。一方で、Gramicciは、ブランドディレクターのステファンとも会話して腑に落ちたことですが、アウトドアやクライミングのルーツを大事にしながら、彼の出自であるストリートカルチャーをプロダクトのデザインや、クリエイティブにも良い塩梅で融合しているように見えるんですよね。これ見よがしではなく、ド真ん中すぎない感じで。それに、ビッグカンパニーだから価格も抑えめで調子の良いものを作るから、若いスケーターたちにもおすすめしやすいし。無数に選択肢があって、懐古する年代でもない若者が穿いていることで、メジャーなものの見え方もちょっと変わってくるように思うんですよ。

ー なるほど、確かに。お客さんたちからはどのような反応がありますか?
Atom:手に取ってはくれますけど、僕らがGramicciの魅力を感覚的にしか捉えられていなかったな、と感じています。なので、ステファンや、サーフショップを営んでいる自分の父親からもいろいろ聞いて、よりブランドへの理解を深めているところです。
ー それは、Atomさんがリアルタイムで体感していない90年代の雰囲気だったり。
Atom:そうですね。たとえば、90年代のアメリカではSupremeとかSTUSSYの周辺のやつらがみんなこぞってGramicciを穿いていて、同じく90年代の日本でも横ノリの人たちの間で流行っていた、とか。アウトドア界隈だけでなく、ストリートの人たちやスケーター、サーファーにも愛されていたパンツってことを知れたのは収穫でしたね。もちろん、僕らが取り扱うからにはスケートに適しているのが前提で、そのうえで流行ってるからとか、みんなが穿いてるからではなく、自分の物差しで判断してもらって、納得感を持ちながら穿いてもらえたら良いなって。
CROWLEY SHORT
中厚手ナイロンを使用したクローリーショーツ。ワイドなユーティリティポケットとスナップ付きスラッシュポケットで高い収納力を備え、ウェビングベルトやガゼットクロッチなどブランドらしいディテールも健在。

ー LAUGはオープンして5年ほどになるようですね。
Atom:20歳の頃からやっているから、ずいぶんと時間が経ったように感じますね。
ー オープン当初はどんな感じだったんですか?
Atom:最初はスケートショップとして認めてもらえていない実感があったんですよ。そもそも横浜には良いスケートショップがたくさんあるし、そのなかでどうやって唯一無二になれるのかなって、すごく考えながらやってきました。LAUGを始めたころは、正直ナメられることも多くて(笑)。今となればそれも理解できるんですけど。確かに、自分がブランドをやっていたとして、20歳そこそこの若造のお店に置くかと言われると、二つ返事では応えられないよな、みたいな。わりと最初からハードルは高めでした。元町に移転してから2年ほどになりますが、だんだんと思い描いていたイメージに近づいてきていますね。

ー 元町に移転する前までは、横浜のなかでもわりと特殊なエリアにありましたよね。
Atom:日ノ出町っていう、市内でも結構ハードなエリアで。店の前を血だらけのホストが通ったり、普通に殴られてる人がいたり。そういうバイオレンスが日常のエリアなんですけど、ちょっとゲトーすぎました。「ここで商売するのは無理だ」と思い続けた3年間でしたね(笑)。
ー 海外では、ゲトーと呼ばれるエリアにスモールサイズなスケートショップがあったりしますよね。
Atom:そうなんですよ。日ノ出町にオープンした当初は、そういうある種の“海外っぽさ”が良いなと思っていたところも正直ありました。というのも、海外、たとえばアメリカとかで治安の悪い場所にあるスケートショップって「悪いことせずにスケートに熱中しようぜ」みたいな、若者を更生するきっかけになっているところがあって。
ー なるほど。そういう側面があるんですね。
Atom:公言しているわけではないし、結果としてそういう役割になっているってだけですけどね。「ドラッグなんかやめて、もっとクリエイティブなことして上がっていこうよ」という啓蒙というか。すごく良い文化だし僕もそうあるべきだと思うんですけど、日本ではあまりにもスケートのカルチャーが成熟していなくて、治安に難がある場所でお店をやっていても普通に自分が危ない目に遭って通うのが嫌になるだけでした(笑)。

ー スケートについては、日本と海外とでずいぶんと評価のされ方というか、受け入れられ方が違いますよね。
Atom:それは日々すごく感じています。LAUGは確かにスケートショップですが、お客さんからも「怖くて入りづらかったです」と言われたり、「これ、スケーターじゃないのに着てもいいんですか?」とか聞かれたりもするんですけど、スケーターじゃなくても当然ウェルカムだし、僕らのアパレルだって別にスケーターのためだけに作ってるわけじゃなくて、みんなに着てもらいたい。そういう意味では、日本では少しスケートが特殊なものというか、馴染みがないというか。スケートカルチャーとの距離感が海外と比べてもずいぶんと遠いんだろうなって。
ー “ポーザー(注:Poser=格好ばかり達者なスケーターを揶揄するスラング)”なんて言葉もありますしね。
Atom:本当に良くない言葉だと思います。人のことばっかり気にして、誰かを揶揄してるやつが一番ダサいし、そいつこそ“ポーザー”なんじゃないの? って思うんですよ。

ー LAUGはこのロケーションもすごく良いなと思います。
Atom:元町は、街並みも空気感も、ヨーロッパ的な優雅な雰囲気があって気に入っています。歴史的な建造物が並ぶリッチな雰囲気のエリアに、急に場違いな感じでスケートショップがある、みたいな。小学生が集団下校で店の前を通ったりするんですけど、いつも「おつかれ〜」って心の中で声をかけてます(笑)。長く住んでいる人も多くて、大荷物のおばあちゃんが困ってそうだったらスタッフみんなで手伝ってあげたりとか。
ー ローカルに根付いている感じがありますね。
Atom:スケートって、地元に根付いて、地元を挙げることで、文化として定着してきたと思うんですよね。海外に行くと、必ず現地のスケートショップに足を運ぶんですけど、たとえば、ハワイやカリフォルニア、ニューヨーク、アメリカ国内だけでもそれぞれのお店にその土地らしい個性があって、地元の人たちが作ってるプロダクトやアパレルが必ず置いてある。その土地で育ったやつらがスケートを初めてビッグになれば、その土地に根付いたブランドがスポンサーして、それが徐々にワールドワイドになっていったのがSupremeだったり、STUSSYだったりするんですけど。

ー ああ、確かにそうですね。
Atom:一方で、日本は海外のものが大好きなので、海外の流行をいち早く取り入れてみたり、お店側もお客さん側も、流行ってるから着ようとか、みんな着ているから入荷しようとか、そういうセレクトショップ的な価値観でやっているスケートショップも少なくないと思っていて。俺たちは横浜でやってるから、横浜発のブランドを置いたり、日本のスケートシーンで存在感がある重要なブランドを置いたり、自然とそういうスタンスになっていきました。ローカルからグローバルに広がっていったスケートショップは、みんなそういうスタンスだったんじゃないかなって思うんですよ。

ー ちなみに、横浜のスケートシーンってどういう感じなんですか?
Atom:あくまで僕の肌感ですが、他のエリアと比べても上手な人は多いと思いますよ。神奈川、横浜は生活のなかに自然なかたちで横ノリがある感じがしています。東京だとファッションやストリートなど、カルチャーの一部としてスケートがある感じがするんですけど、僕らにとってはチャリンコ的な、もっと身近な存在というか。ちょっとした移動用として持っている人も多いんですよ。僕もこのあたりだとちょっとコンビニ行くときに乗ったりとか。
ー お店の周辺で滑ることはあまりないんですか?
Atom:正直、日本国内でがっつり滑ることにはもう限界を感じています。都心部や市街地だとすぐに通報されて、警察や警備員も来て、怒られちゃいますからね。

ー 確かに、海外だったらそこがもう少しラフだったりしますよね。
Atom:そうなんですよ。海外だったらキックアウトみたいなことがあったとしても「ごめん、悪かったよ」のひと言で済むことが多いので。
ー 日本のスケートビデオを観ていても、街を歩いていても、スケーターと警察や警備員が揉めてる様子はたまに見かけますね。
Atom:あれは流行というか、目立つから印象に残りますよね。個人的には、わざわざ揉めてまでストイックにやりたくはないです。同じような感覚のスケーターも結構多いんじゃないかな。
ー Atomさんの場合は、生まれた時から家がサーフショップで、生活と横ノリの距離感が近いから、ということもありそうですよね。
Atom:そうですね、怒られてまでやるのもどうなのかなって思います。繰り返しになりますが、本当に自転車に乗るような感覚で、近所で軽く滑ってるときに、縁石をのぼるためにオーリーする、みたいな感じです。そのときに「このルートをこういって、ここでオーリーしたら楽しそうだな」とか、そういうことを考えたりしながら。スケーターはみんな分かると思うんですが、ラインが見えてくる感覚というか。

ー スケーターは街をそう見ているんですね。
Atom:やっぱり、街をただ歩いていても、人と視点が変わってきちゃうんですよね。出先でもずっと「ここをオーリーで飛び越えたら楽しいだろうな」とか考えちゃってますから(笑)。街やモノを人とは違う角度で見ていて、面白いものにも敏感だから、スケーターはみんな写真を撮ったり、絵を描いたりするんだと思います。
ー へー、なるほど、確かにそうかもしれませんね。街やモノの見方ですか。
Atom:「ここの階段、やばい造りしてるな」とか、すぐいろんなものに目がいっちゃうんですよね。海外の、たとえばマンホールとか公共にある何かしらの鉄の部品って、日本みたいに均一じゃなくて全部模様が違ってたりするんですよ。僕らは路面を観察しながらスケートをするからそういうものがすごく目につくんですよね。
ー この路面は綺麗だなとか、滑りやすそうだなとかだけでなく。
Atom:はい。「なんでここ滑りやすいんだろう?」って考えるとなんとなくその理由が分かってきたりするんですが、そういうインプットはお店の内装にも活かせることが多いです。それだけでなく、アパレルでもなんでも、何かしら作るときのアイデアになってくれることが多いですね。

ー スケートのスタイルにも国民性というか、ローカリズムみたいなものはあるんですか?
Atom:あると思いますよ。ビデオの作り方は特に地域によって違いますね。ヨーロッパのスケーターは、レッジやステアを使うにしても、ちゃんとかっこいいロケーションにあるものを選んでいる印象があります。大きさや高さだけじゃなくて、それらをどう複合させるか、みたいな。DJのミックスにも近い感じがします。「バコン!」ってデカくやるのがアメリカで、それはそれでかっこいいんですけど、ヨーロッパのスケーターたちの、街を上手に使う洗練された滑り方には影響を受けていますね。
ー LAUGもビデオは積極的に作っていますよね。
Atom:ライダーを3人抱えているので、一緒に海外のツアーに行ったりとかもしています。
ー それはすごいですね。
Atom:お金もめっちゃかかりますけど、こうやって全力でやれるのも若いうちだけだから良いかなって(笑)。そんなことをやっているうちに写真撮っているやつとか、ムービーやってるやつとか、いろんなクリエイティブな人たちが集まってきて、徐々にLAUGが集合体として大きくなってきている実感もあります。
ー LAUGを起点としたカルチャーが生まれているんですね。
Atom:そうですね。LAUGがあることで次の世代が何か新しいアクションを起こすきっかけになれば良いとも思っています。クリエイターだけでなく、もちろんスケーターたちにとっても。日本のスケートシーンだと、若い子たちが何かムーヴメントを起こすことが極端に少ないので、そのハードルを僕らが少しでも低くして、安心して歩けるように道を整備しておきたいんです。