1982年、カリフォルニア州・ヨセミテの岩から誕生。確かなスペックと西海岸由来のレイド・バックなムードも手伝ってか、スケーターやサーファー、ヒッピーが好んで着用するなど、時代とともにさまざまなカルチャーと結び付いていったGramicci。アウトドアやクライミングはルーツであり、軸であるが、あくまで一側面。また別の側面からGramicciを形作るのはサブカルチャーにほかならない。本連載では、多様なカルチャーに精通するショップオーナー、クリエイターにインタビューを敢行。ブレない姿勢と心構え、自らのスタンスで立つ彼ら彼女らにとってGramicciはどのような存在なのだろう? 第4回は、神戸の古着店・EPOCHの店主である、本岡良太さんに話を伺った。
2015年創業。倉庫を改装した店内には、90年代のアウトドアブランドの古着やデッドストックを中心に、アングラー系のアパレルやグッズなど、本岡さんがセレクトした多種多様なアイテムが並ぶ。

ー EPOCHはオープンからどれくらい経ちましたか?

 

本岡:今年の4月で9年になりました。なので、10年目です。

 

ー 以前は同じく神戸のJUNK SHOPでバイヤーをしていたとのことですが、EPOCHでも本岡さんがバイイングをしていると。

 

本岡:あまり深いことは考えずに、単純に僕が好きなものを集めて、置いています。外遊びが好きなので、アウトドアっぽいものが多いですね。釣りをメインに自転車やバイクなんかもやってるんですけど、そういうときに着られる実用的なものと、ヴィンテージも好きなので、そういうものもちょっとだけ置いています。

 

ー 基本的に自分が使うもの、使いたいと思えるものだけを置いている?

 

本岡:そうですね。“ファッション”や“流行”みたいなことは意識していないです。なので、置いているものはオープンした10年前からほとんど変わっていません。飽きずにいつでも着られて、ある程度ラフに扱っても大丈夫な服にしか興味が湧かなくて。お店に置くのも、自分が着るのも、洗って着て、洗って着てを繰り返せる服が好きですね。

ー 言い換えると、デザインはシンプルで、タフなもの。

 

本岡:はい。やっぱりそのときしか着られないよりは、10年後も20年後も着られる服の方が良いじゃないですか。それこそGramicciのパンツなんかもそうで、今日も穿いてますし、中学生の頃からずっと穿いています。今は普段着って感じですけど、当時はスケートをするときに穿くことが多くて、スケートブランドの古着のTシャツだったり、今日みたいに適当な無地のTシャツと合わせたりして着ていました。

GRAMICCI PANT

耐久性の高さとコットンツイルによる雰囲気のある表情で長年愛され続けるGramicciの定番パンツ。クライマー向けに搭載された、容易な開脚を可能にするガセットクロッチと、片手でのウエスト調節を叶えるウェビングベルトは普段使いでもその機能を発揮する。

ー 本岡さんにとって、Gramicciのパンツはどのようなところが魅力ですか?

 

本岡:まず、めっちゃ普通じゃないですか。ぱっと見でどこのブランドか分からない服が好きなんですよね。ベルトにロゴが入ってますけど、これくらいなら嫌じゃないです。あとは中学生の頃の僕としては、穿きまくって、洗って、色褪せて、スケートして転んで破れちゃっても抵抗なく買い換えられる値段だったのも魅力でした。

 

ー 値段、けっこう大事ですよね。

 

本岡:大事だと思います。20,000円とかするパンツだったら大事にしちゃって、外遊びやスケートのときに着られないので。

ー 今日は私物のGramicciのアーカイブもいろいろと持ってきていただきましたが、どれも初めて見ました。

 

本岡:ストックルームにはまだまだいろんなやつがありますよ。買い付けをしていると、たまに同じ種類のやつが大量に出てくることがあるので、そういうのを1本だけ自分用に残しておいてます。サイズ的に穿けないけれど、色や柄が好きだから持っているようなのとかもあって、このシアサッカーのストライプのやつは珍しいな、と思って、穿けるサイズじゃないけど手元に残しています。

O.G. MICRO PLAID SEERSUCKER G-SHORT

創業当時の『G-SHORT』を復刻したヴィンテージライクな1本はタバコとミントの2色展開。薄手で軽く、清涼感がある格子柄のシアサッカー素材を使用しており、ジャガードウェビングベルトも当時のものを再現した模様が施されている。

ー こんな柄もあったんですね。

 

本岡:40年以上もブランドをやっていたら、1〜2年だけスポットで作ってたやつとか、一回きりしか作らなかった柄物とかもあるんでしょうね。買い付けをしていても、いまだに見たことないやつがゴロゴロ出てくるんですよ。定番のパンツでも時期によってはウエストにクリアバックルを使っていたり、ウェビングベルトにロゴが入っていなかったり、細かなディテールも年代によって微妙にちがっていたりして面白いんですよね。

ー これとか、何用のやつなんですかね。

 

本岡:クライミング用のやつとかなんですかね? 僕自身、クライミングはやらないですが、これは普段からよく穿いています。ポケットが付いていないんですけど、スマホや財布はウエストにこう、挟んで。

 

ー 普段着として着るには、けっこう不便ですよね。

 

本岡:不便ですけど、当時のGramicciはこういう偏った仕様のパンツとかもけっこう作っていた印象があります。そういうのを見つけると、最近の洋服って良くも悪くも便利になりすぎているかもな、と感じます。着方や使い方に工夫の余地がないというか。一見して不便なものを工夫して着るのも楽しいんですけどね。まあ、ポケットは付いてた方が絶対に便利なんですけど(笑)。

ー 変な話ですが、資料として見ても面白いですね。

 

本岡:そういうお客さんもいますよ。見に来るだけ、みたいな。全然歓迎ですけどね。東京から来るお客さんも多いですし、それこそステファン(※ステファン・ウェンドラー。Gramicciのクリエイティブ・ディレクター)も何度か来てくれました。もう知り合ってから5年くらいになりますね。ステファン、おしゃれですよね。

ー 本岡さんは基本的にはいつもお店にいるんですか?

 

本岡:だいたい毎日いますよ。長期の海外バイイングで1ヶ月店を閉める、みたいなこともないです。基本的には毎日開けておきたいんですよね。いつ来ても開いているお店って、なんとなく信用できるじゃないですか。

 

ー 確かに。でも、大変じゃないですか?

 

本岡:大変ですよ。趣味の釣りにも最近はあんまり行けてないです。でも、店にいるのが好きなんですよね。自分がオーナーをやっている限りは、なるべくお店に立っていたいなと思っています。「今日お客さん来ないから早く閉めよ」とかも絶対にしたくなくて。EPOCHは神戸の中心地からも少し離れてるし、流れで立ち寄れる位置にあるわけでもないので。

ー 普段行かないエリアのお店で、営業日の営業時間中に行って臨時休業、とかたまにありますけど、けっこう萎えます。

 

本岡:ですよね? それで一生行かない、とかではないと思いますけど、せっかく来てくれるお客さんにも失礼だなって思います。

 

ー そのほかに、お店を運営する上でのマイルールみたいなものはありますか?

 

本岡:なんやろ。いろいろ考えながらやってるつもりですけど、言葉にするのは難しいですね。でも、ブレないようにしたい、とは常に思っています。安心感じゃないけど、「EPOCHに行けばこういうものが買える」「こういうものが欲しいからEPOCHに行ってみよう」みたいに思ってもらうのって、やっぱり大事なんですよね。夏だからダウンジャケットやフリースは売らないとか、冬だからTシャツは売らないとか、そういうこともしません。服は服ですけど、もっと道具っぽい扱いというか、やっぱりファッションとして捉えていないんですよね。

ー お店に置いてあるものは、本岡さんのコレクションって感覚が少なからずある?

 

本岡:うん、そうかもしれませんね。だから、販売しなくても良いかも、みたいなことはたまに考えます。

 

ー それってけっこうな境地じゃないですか?

 

本岡:一回そっちに振り切ってみるのも良いのかもなって。遊びを伝えていくというか。

ー ちなみに、値付けもなんとなく相場より安い気がしました。

 

本岡:自分の中の適正価格を守ろうとした結果、相場よりも安くなってしまったって感じです。意図して安く値付けしているわけではないですけど、若い子がバイト代で数万円もする洋服を買って、もうその1ヶ月は遊べない、みたいなのはすごくもったいないな、と思うんです。それを着て何をするかが大事なのに。

 

ー なるほど。この本岡さんの商売っ気のなさの理由が、少しずつ分かってきた気がします。

 

本岡:ちょっとボランティアみたいなところがあるんですよね(笑)。売りたいとか儲けたいって気持ちはあんまりなくて。どちらかというと、いろんなものを見て、いろんなものに触れてきた自負があるから、それを共有したい気持ちが強いです。だからこそ、近い感覚を持ったお客さんが来てくれたときはすごく嬉しいです。EPOCHは接客らしい接客はしないんですけど、お客さんがレジに商品を持ってきて「お、すごいの選びましたね」みたいに思うことがたまにあって、そういうときはテンションが上がります。それを伝えることはないんですけど(笑)。ただ見て、勝手に楽しんでるって感じですね。

 

ー 好きなことを続けていくのが、一番の目的というか。

 

本岡:もちろん、そうですよ。お店をやろうと決めたのは自分だし、売れなかったら全部自分の責任じゃないですか。せっかくお店をやってるんだったら、自分が好きなこと、やりたいことを追求したほうが良いよなって思います。

ー EPOCHではオリジナルのMIX CDを作ったり、レーベルと組んだりしてラッパーやDJをフックアップしていますが、本岡さん自身はどのようなカルチャーに触れてきたんですか?

 

本岡:カルチャーかは分かりませんが、釣りとスケボーしかしてなかったです。特にこういう作品が好きとか、何かに影響を受けたから今があるとか、そういうのもないんです。興味がないわけではないんですけどね。周りの友人から影響を受けたりはしますし、普通に音楽を聴いて「この曲、良いな」と思ったりもします。CD作ったりしているのは、そもそもそういうことをやってる友達やお客さんが多いんですよね。神戸ってナイトカルチャーがあんまり発達していなくて、みんな発信に苦戦しているんですよ。だから、EPOCHを通じて少しでも手助けになれば良いなと思って。

ー なるほど。好きなものは、もう固定されている?

 

本岡:そうかなと思います。「今、これハマってる」みたいな、マイブーム的なものとかもなくて。ずっと同じものにハマってます。買い付けもずっと同じ感じでやってるんですよね。だから、お店のバックボーンみたいなものをカルチャーとするのなら、釣りとスケボーになりますね。僕自身の好きなものが変わっていったらきっとお店に置いてあるものにも反映されていくんでしょうけど、まあ変わらないでしょうね。それが良いのか、悪いのかは分からないですけど(笑)。

 

ー あ、そういうことですね。ご自身の好きなものを置いているから、逆にあまり接客をしないってことですか。

 

本岡:そうなんですよ。全部良いものだし、説明はできるんですけど、なんだか押し付けっぽくて嫌だな、と感じてしまって。

ー 海外に長期買い付けに行かないことも腑に落ちました。

 

本岡:見たことのない、面白いものとの出会いを求めて国内外問わずあちこちバイイングに行くのも楽しいんですけどね。EPOCHみたいな少し偏ったものを置いているお店だと、そういう足で稼ぐタイプのバイイングはあまり効果的ではないように思えてしまって。

 

ー 本岡さんの好みが反映されすぎていて、なかなか売れないものとかもありそうですね。

 

本岡:どれかは言いませんが、しばらく誰も触ってないやつとか全然ありますよ(笑)。でも、それで良いんです。自分が好きなものだから、むしろ置いておきたい。「これ、良いな」と共感してくれる人が出てきたら、もちろん売りますけどね。

Photo_Daiki Endo
Graphic Design_Misato Imura
Text&Edit_Nobuyuki Shigetake

ARCHIVES

Stance Vol.5 108WAREHOUSE

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.10

Stance Vol.3 MOBLEY WORKS(Rikiya Burioka)

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.9

Stance Vol.2 PROV(Seiji Mochimatsu)

Stance Vol.1 PROPS STORE(Takeshi Doi & Jun Fujii)

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.8

プロフリークライマー 小山田大さん

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.7

ボタニクス 代表/ルートセッター 伊藤剛史さん

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.6

モデル/フォトグラファー 松島エミさん

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.5

スポーツクライマー/会社員 中村真緒さん

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.4

プロロッククライマー 島谷尚季さん

GRAB! CLIMBER‘S MIND Vol.3

オーサムクライミングウォール 店主 永山貴博さん

このページの先頭へ