今やファッションとして日常に根付いているグラミチだが、ルーツは紛れもなくクライミングにある。それは、1970年代に“ストーンマスター”と呼ばれた伝説的ロッククライマー、マイク・グラハムによるクライミングパンツに端を発するブランドだからだ。本連載では、クライミングに心を掴まれたクライマーたちのメンタリティやライフスタイル、クライミングとの向き合い方に迫る。改めてグラミチの原点を辿る道標には、図らずも今を生き抜くエッセンスが内包されていた。
松島エミ
松島エミ
NAME
松島エミ
TITLE
モデル/フォトグラファー
AREA
カテドラル・ピーク
PROFILE
1987年生まれ、カリフォルニア州ロングビーチ出身。日本人の父とドイツ人の母を持ち、幼少期から海外を転々とし、16歳からモデルの仕事を始める。2020年から拠点をカリフォルニア州ロサンゼルスに移し、モデルのみならずフォトグラファーとしても活動している。
飾らない等身大のスタイルが心地よいモデル兼フォトグラファーの松島エミさん。クライミングだけでなくバックカントリースキーやハイキングなど、山をこよなく愛しアクティブなライフスタイルをカリフォルニアにて確立している。クライミングは人生において必要不可欠だと語るその理由を、彼女の軌跡からひもとく。
―――クライミングを始めたきっかけはなんですか?

小学生のころスペインに住んでいたんですが、家族とマドリッド郊外のラ・ペドリサというエリアに遊びに行き、山に触れたりキャンプをしたりしていました。そこで、岩場をスクランブリングしたのが初めてのクライミング体験でした。子供のときの一番楽しかった思い出として今も胸の奥に残っています。それから20年近く山からは離れていたんですが、5、6年前からまた本格的にやり始めました。

―――クライミングと離れていた空白の時間があったんですね。

とにかく慌ただしかったんです。カリフォルニア州のロングビーチに3歳までいて、その後ベルギーに1年→ドイツのデュッセルドルフに1年→広島に4年→スペインのマドリッドに4年→ドイツのボンに4年……そして16歳に家を出て、モデルとして上京しました。その後、ロンドンの大学に行ったんですが、2週間で辞めて東京に戻ってきてから4年間はまたモデルの仕事を。
それからナイトライフにハマっていき、シンガポールでクラブのブッカーの仕事を始めたのですが、コマーシャリズムが強く、本当のアンダーグラウンドを知りたいと思ってベルリンに移り住むことに。そのときに、クライミングを久しぶりにやり始めましたね。とにかく、いつも何かにしっくりこなくて、ずっと移動していた感じなんです。

―――怒涛の生活ですね。ベルリンのクライミングカルチャーはどんな感じだったんですか?

岩場は近くにないんですけど、とても流行っていて街中にはたくさんのジムがありました。ジムカルチャーも独特で、カフェやバーが併設されていてみんなチルしながら楽しんでいましたね。アメリカや日本のようなアウトドアカルチャーでもスポーツカルチャーでもない感じというか。

―――今はカリフォルニアでクライミング中心の生活を?

そうですね。カリフォルニアで初めて外岩に行ったんですが、そこからもうどっぷりハマっちゃいました! クライミング以外にも、バックパッキング系のハイキングも好きで、カリフォルニアには4000m以上の山が15個あるんですが、それを1個ずつクリアしていくのも目標にしています。バックカントリースキーもやりますし、時間が空いたら常に山に行っています。
―――クライミングとは松島さんにとってどういう存在ですか?

心と体が一体化する瞬間。危険が伴うので必然的に100%フォーカスしなければいけないのですが、邪念が全部なくなります。日常では、いつも考え事をしていて心と体が別々に動いてるじゃないですか? クライミングをしている瞬間は、心と体がやっと同じ方向を向いて動いてるような……その感覚がとにかく好きですね。日常になくてはならないメディテーションです。
―――今回登ったカテドラル・ピークについて教えてください。

ヨセミテ国立公園の北側に位置するトゥオルミ・メドウスというエリアにあるクラシックルートが、カテドラル・ピークです。標高が高いので、どちらかというとアルパインクライミング寄りの場所で、ヨセミテの中心から車で1時間程北上するため、人が比較的少ないのがとにかくリラックスできていいんです。
とはいえ、もちろんアメリカでは有名な場所で、カテドラル・ピークもトゥオルミのなかではTOP3に入る人気ルート。工程的には、カリフォルニアからカテドラル・ピークまでは車で約5時間半、アプローチ(スタート地点)までに2時間、クライミング自体は4時間程で、降りるのに3時間くらいかかります。

―――シーズンはいつなんですか?

標高が高く雪が降り始めるのも早いのでシーズン自体は短く、通常なら5月~6月にオープンして11月にはクローズします。基本的には夏しかアクセスできない場所ですね。

―――松島さんのクライミングスタイルについても教えてください。

プロテクションなどを自分で装備するトラッドのマルチピッチがベースで、アドベンチャークライミングが好きですね。ボルダリングというよりは、一日かけて山と向き合い没頭するほうが自分には合っている気がします。
―――グラミチにはどんな印象をお持ちですか?

クライミングブランドなんですが、ファッションのフレーバーを持ち合わせているブランドだと思っています。ロサンゼルスの友達だったり、クライミングはしないけどグラミチを穿いている人は結構多いですよ。

―――松島さんは普段どんな服装を好んでいますか?

こっちってお洒落する必要がないし、もともとユニセックスなスタイルが好きなのでアウトドア系が多いですかね。それこそ、グラミチのパンツにスポーツブラみたいな。後は、昔から持ってるジョンローセンスサリバンとかの服にアウトドア系をMIXしたりして楽しんでいます。

―――いや、めちゃくちゃお洒落じゃないですか(笑)。

そうですかね(笑)。グラミチは、カリフォルニアの空気感にも肩肘張らずに馴染むブランドなので、自由なマインドでいろいろな着こなしができると思います。
―――現在拠点を置くカリフォルニアは、松島さんにとってどういう場所ですか?

先にお話しした通り、とにかくバタバタと世界中を飛び回っていて、どこにいても落ち着かなかったんですが、実はカリフォルニアにはずっと憧れていました。2019年に訪れた際、タイミングや縁も重なり、今ならここに住める自信というか、メイクセンスだと腑に落ち、2020年の2月末に移住を決意しました。

―――カリフォルニアの何が松島さんの心のピースを埋めたんですか?

何ですかね……ライフスタイルが自分にピタッとハマッたのかもしれません。今、人生で初めて、次を探していない。今まではずっと“ここではないどこか”を追い求めていたんですけどね。
昔から体を動かすことが好きでアスリートになりたいって思っていたんですが、小さいころから引っ越しを繰り返して、友達を作るとか新しい環境に合わせることで精いっぱいで、自分と向き合うことは後回しにならざるを得ず、運動や部活に没頭することができなかった。モデル活動をしているときもジムで体は動かしていたんですが、いつの間にかモデルならではの“痩せる”ということが目的になっていたり。そのモヤモヤを、クラブに行って音楽を聴くという刺激で吹き飛ばしていたつもりだったんですが、結局は満たされていなかったんだと思います。

―――家族と山で遊んでいた小学生のころの楽しさや充実感が、ここにはあったんですね。

そうですね。今やっと山や自然に戻れて、小さいときに感じた感覚が蘇ったというか、うん、正しい刺激をもらってる感じがしますね。今の私がありのままの、本当の自分なんだと思います。
―――最後にクライミングを通して伝えたいメッセージがあればお願いします。

個人的にはボルダリングにも挑戦して、どのレベルまでいけるかっていうのにチャレンジしてみたいですね。クライミングを30代から本格的に始めたのでリミットは感じてはいるんですが、今が一番強いという自信があるので。
活動に関しては、アウトドアやクライミングに興味はあるけど、アクセスや知識がない人をサポ―トできるコミュニティを作っていきたいと思っています。カリフォルニアって海の印象が強いと思うんですが、シエラネバダ山脈など本当にキレイな山もたくさんあるので、山のカルチャーをもっと多くの人に知ってもらう手助けをしていきたいです。
Photo:Mark Popovich

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