今やファッションとして日常に根付いているグラミチだが、ルーツは紛れもなくクライミングにある。それは、1970年代に“ストーンマスター”と呼ばれた伝説的ロッククライマー、マイク・グラハムによるクライミングパンツに端を発するブランドだからだ。本連載では、クライミングに心を掴まれたクライマーたちのメンタリティやライフスタイル、クライミングとの向き合い方に迫る。改めてグラミチの原点を辿る道標には、図らずも今を生き抜くエッセンスが内包されていた。
中村真緒
中村真緒
NAME
中村真緒
TITLE
スポーツクライマー/会社員
AREA
B-PUMP OGIKUBO
PROFILE
2000年生まれ、東京都出身。会社員として働きながら、数々の国際大会で活躍し続けるスポーツクライミング界のヒロイン。“クライミング”と同じくらい“ご飯を食べること”が大好きで、先日も立川の名物町中華『四つ角飯店』で1.6㎏角煮定食+水餃子を完食したばかりだとか。ちなみに、好きなお米の品種は『青天の霹靂』!
そこにいるだけで場の空気が一瞬で明るくなるポジティブオーラを放つ、スポーツクライマーの中村真緒さん。普段トレーニングを積んでいるB-PUMP OGIKUBOにて、会社員として働きながらクライミングの国際大会にチャレンジし続けているという独自のスタイルや笑顔の秘訣についてお聞きした。
―――クライミングを始めたきっかけはなんですか?

小さいころからずっと犬を飼いたかったんですが、小学5年生のときにやっと念願が叶いました。“カワイイ・ちっちゃい・毛が抜けにくい”という私の3大条件にピッタリだったのがビション・フリーゼという犬種で、“こむぎちゃん”と命名。ちょうど夏休み前に飼い始め、こむぎちゃんのお世話をするために予定を全部キャンセルしたんですが……1日17時間くらい寝るんです(笑)。
だから、やることもなくてただただ夏休みに家に居るっていう状況に。そこで、両親に相談して家から距離も近く遊べるところとして通うようになったのが「品川ロッキー」というクライミングジムだったんです。

―――きっかけがワンちゃんだったんですね!

そうなんですよ! ですが、こむぎちゃんの世話もそっちのけになるくらい(苦笑)どんどんクライミングにハマっていっちゃって。その当時テニスも習っていたんですが、クライミングのスクールと日にちが被ってしまい結局テニスを辞めました。
テニスって、対戦相手がいていろいろ緩急をつけたりしながら駆け引きするじゃないですか? 私は、とにかく猪突猛進スタイルで、攻め続けることしかできなかったのであまり向いていなかったんだと思います(笑)。クライミングならずっと全力でぶつかっていけるので、スタンス的にも合っていたんでしょうね。

―――大会に出始めたのはいつごろなんですか?

高校1年生のときですね。その年はユースの日本代表や東京都の代表になったり、本当に慌ただしい1年でした。なかでも、国体に野中生萌さんとペアで出場したことはとても大きな経験でした。きっかけは野中さんの相方がいないってなったときに、クライミング関係者内の推薦でたまたま私の名前が挙がったんです。高校生のころからあの髪色を貫いてるし、初めて会ったときはめちゃくちゃ怖かったんですけど……実際はめちゃくちゃ優しくて(笑)。
野中さんは2学年上なんですが、その当時からずっと今に至るまで先頭を走り続けられるところが本当に凄いなって思っています。私のクライミング人生には必要不可欠で、本当に神様みたいな存在ですね。
―――中村さんが出場しているスポーツクライミングについても教えてください。

スポーツクライミングの種目は、スピード・リード・ボルダリングの3つです。スピードは、世界共通のコースがあってそれを何秒で登れるかを競う競技です。2017年頃まで日本にそのコースが存在しなかったということもあり、比較的日本では新しい種目ですが、今ではメダルを取る選手も出てきています。次にリードは、高い壁に設けられた一本のコースを制限時間内にどれだけ高く登れたかを競う競技で、持久力が必要になります。最後はボルダリングで、壁にあるコースを制限時間内に何本クリアできたかを競う競技で、私はボルダリングが一番得意ですね。

―――外岩にも行くんですか?
今は選手としてスポーツクライミングをメインに行っていて、大会などもあるので岩場に行く時間がなかなかないんです。でも、岩場でのクライミングももちろん大好きなので、上手くバランスを取ってなるべく行けるようにできればと思っています。
―――よくトレーニングに訪れるという「B-PUMP OGIKUBO」について教えてください。

日本のクライミングジムのパイオニア的な存在で、歴史もありますし個人的にも日本で一番いいジムだと思っています。野中さんをはじめ、選手の方も多く通っている場所なので一緒に練習できるというのもメリットですね。また、ホールド自体の輸入代理店でもあるので種類がとにかく豊富で、ワールドカップに出てくるようなホールドや最新のホールドも設置されているのも魅力的です。

―――ほかのジムに行くこともあるんですか?

もちろんあります。週5,6日はトレーニングをしているのですが、「B-PUMP OGIKUBO」は週2,3回で、残りは別のジムに通っています。例えば「THE STONE SESSION TOKYO」ではダイナミックな動きを練習したり、小さなホールドがたくさんあるジムでは指先を強化するために行ったりしています。「B-PUMP OGIKUBO」には、主に大会に向けての本番に近い練習をするために来ている感じですね。練習環境としては、本当にBESTです!
―――グラミチとの出会いはいつですか?

高校3年生くらいのとき、母親に“グラミチってクライミングパンツのブランドらしいよ”って教えてもらったのがきっかけで穿き始めました。ロゴやグラフィックがとにかく可愛くて、それからどんどんコレクションするようになりました。ジムでは基本グラミチのシェル系のショーツを愛用していて、外岩に行くときは、生地もしっかりしていて脚も上がるのでグラミチパンツを穿くことが多いです。

―――それはとても光栄なことです! 普段も愛用してくれているんですか?

もちろんです。私物で上下併せて20着くらいはあるんじゃないでしょうか? もともとメンズライクなものが好きで、シルエットもダボッとしているのがいいんですよね。ブランドとして好きなのってグラミチぐらい。クライミング界で一番グラミチが好きな自信あります!
―――中村さんは現在、会社員でもあるんですよね?

はい。日本山岳スポーツクライミング協会のオフィシャルパートナーにも入っている「日新火災海上保険株式会社」という保険会社に社員として務めながら、スポーツクライミングの国内大会や国際大会に出場し、競技活動を行っています。簡単にいうと実業団みたいな感じで、午前~昼過ぎまではオフィスで仕事をして、その後ジムに行って練習するというのが主なライフスタイルです。

―――一般的にはクライミングジムなど、クライミングに関係のある仕事をしながらクライマーとして活動していくと思うので、中村さんのスタイルは珍しいですよね?

そうですね。正直にいうと、私は将来安定したいという想いが強かったんです。なので、現在勤めている会社で働けなかったとしても、普通の会社員をしながらクライミングを続けていく道を模索していたんじゃないかと思います。今の会社には、本当に感謝しています。
―――クライミングを通して伝えたいことがあれば教えてください。

先にお話した通り、私は大学在学中に就職活動を経て会社員となったうえで競技を続けています。実際、高校・大学を卒業したタイミングでクライミングを辞める人も結構多いので、自分のスタイルが一つのモデルケースとなり、人生においてクライミングをやり続けられる道標になれればと思っています。そのために、これからも仕事と競技を両立しながらワールドカップなどでもっともっと活躍できる選手になっていきたいです。

―――最後に中村さんにとってクライミングとは?

人生最大の趣味! 楽しくなきゃ意味がないと思っているので、勝ちにこだわりすぎてしんどくなるくらいなら、明日にでも辞めます(笑)。今のところ、生涯辞めることはなさそうですけどね!
Photo:Kanta Nakamura(NewColor inc)

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