今やファッションとして日常に根付いているグラミチだが、ルーツは紛れもなくクライミングにある。それは、1970年代に“ストーンマスター”と呼ばれた伝説的ロッククライマー、マイク・グラハムによるクライミングパンツに端を発するブランドだからだ。本連載では、クライミングに心を掴まれたクライマーたちのメンタリティやライフスタイル、クライミングとの向き合い方に迫る。改めてグラミチの原点を辿る道標には、図らずも今を生き抜くエッセンスが内包されていた。
マサヤ・ファンタジスタ
マサヤ・ファンタジスタ
NAME
マサヤ・ファンタジスタ
TITLE
JAZZY SPORT キャプテン
AREA
THE STONE SESSION TOKYO
PROFILE
1977年生まれ。神奈川県横須賀育ち。幼少期に始めたピアノを通して音楽に開眼し、後に両親の影響でジャズに没頭する。2001年に“音楽とスポーツをこよなく愛する女性に優しいハードコア集団”「JAZZY SPORT」を設立。音楽イベントを通した山岳スポーツシーンの振興のみならず、現在は保護犬の命と向き合う「JAZZY DOG LIFE」を立ち上げるなど、その活動はJAZZYでFANTASTIC。
プロデュースを手掛けたボルタリングジム「THE STONE SESSION TOKYO(以下TSS)」に、拠点の長野からハイエースに乗って現れたMASAYA FANTASISTAさん。車越しからでも優しくも力強いオーラが滲む。ちなみに、持ち物は助手席に置かれたクライミングシューズのみ。TSSにて、クライミングと音楽の関係性から現在行っている保護犬活動まで、MASAYAさんの現在地についてお伺いした。
―――クライミングを始めたきっかけはなんですか?

生まれ育った横須賀に、クライミングの練習ゲレンデとして著名な鷹取山があったんです。当時、首都圏からは一番アクセスがよく、多くのクライマーで賑わっているなかで遊んでいました。
また、小さいころからずっとスキーをやっていて、その後山スキーをやるようになりました。冬山を滑るときは沢を滑ることも多く、夏場に視察に行ったりする流れで沢登りをするように。そこにはクライミング技術が必要不可欠なので、自然にクライミングと接するようになっていきました。ボルダリングだけでなく、マルチピッチや懸垂下降、ロープワークの必要なバリエーションルートもやったり、山岳スポーツの中にクライミングがあるという感覚です。
クライミングは、自分の身を守るために必要な技術であり、トレーニングであり、遊びでもあります。

―――JAZZY SPORTとしてクライミングと音楽で関わるようになったのはいつですか?

15年くらい前ですかね。韓国でアウトドアエキスポがあって、当時そこに関わっていたJAZZY SPORT SEOUL (以下ジャジスポ)の仲間が、ノースフェイスのアジアのアスリートを集めてショーアップしたコンペをやるときに、初めて音楽をかけました。日本の選手たちからは“日本でもこういうスタイルでやってほしい”って声をもらって、山岳協会の人たちと繋がり“一緒にクライミングを盛り上げていきましょう”っていう流れに。国内では10年くらい前から「ザ・ノース・フェイス・カップ」で音楽を担当しています。
―――セレクトする音楽で心掛けていることは?

単純に自分たちが好きな音楽をかけています。ただ、高揚感だったりエネルギーを感じるものやストイックさ、浮遊感のあるものをベースに、“応援してるよ!”という気持ちが選手たちに伝わるようなセレクトは心掛けています。実際、選手たちは集中していてあまり耳には入っていなかったり、“もっと分かりやすいのをかけてくれよー”って、思ったりしているかもしれませんけど(笑)。
でも、日本で開催されるワールドカップなどの国際大会では、海外の選手や監督から“めちゃくちゃクールだから、全部のワールドカップを周ってほしい”とかよく言われて。“あっ、俺たちやっててよかったな”って。

―――海外の人たちからの反響が凄かったんですね。音楽とクライミングの関係は変化しつつありますか?

クライミングだけじゃなく、スポーツと音楽ってそもそも遠い存在じゃないと思っています。競技中は何故か静かにしなきゃいけないっていうのがありましたが、今は普通のシーンになりつつある。プロフリークライマーの平山ユージさんの存在も大きいと思います。彼は実際フランスに住んでいたときに、フレンチヒップホップやアシッドジャズとかの流れをリアルタイムで体感していて、ジャジスポ的な音楽にも理解があり、フックアップしてくれました。

―――MASAYAさんにとってクライミングとはどんな存在ですか?

自然との融合。自然と対峙するのではなく、一体になることが大切だと思っています。実際スポーツクライミングは究極の個人スポーツ。自分と課題。それがどこまで一つになれるかを突き詰めるものですから。
ただその一方で、セッション効果も凄いんです。みんなで励まし合うと、一手ずつ伸びていって、登れないと思っていた課題が登れたりするしね。そういう意味では、孤高のスポーツであり、セッションから生まれるグルーヴ感を体感できる面白さもあります。
―――JAZZY SPORTがプロデュースしたTSS TOKYOのコンセプトについて教えてください。

地域の子供たちの未来にとってプラスになる施設を目指しました。赤ちゃんって、最初はハイハイをしてその後つかまり立ちをしてどんどんよじ登ろうとしますよね? それって人間の本能みたいなもので、その延長線上にクライミングがあると思っています。
だから、ここには砂場がある。まずはハイハイをして子供用の壁を登るようになり、隣で大人が登っているのをみて憧れを抱く。そして、どんどん強くなって世界にチャレンジして行くような子供が出てくれば最高だと思っています。

―――ボルダリングの壁に関してこだわりはありますか?

普通のジムって、課題にテープを貼ってグレードを明記します。ですが、ここではそれをやりません。こちらからグレードを予め指し示すのではなく、それぞれ自分が登りたいと思った課題と純粋に向き合うことを楽しんでもらいたいと考えているからです。

―――ボルダリングだけでなく、ストライダーから大人用の自転車も同じ施設内にあるんですね!

カフェも併設していますよ。子供の未来とサポートする大人を繋ぐ、コミュニティスペースになればと思っています。
―――グラミチとの出会いはいつですか?

出会いは90年代でした。もちろんクライミングから生まれたブランドだってのは知っていて、よく穿いてましたね。自分達の音楽もそうですが、30年後、50年後、100年後に聞いてもフレッシュでファンキーな、そんな普遍的なものを目指していますし、それが一番カッコいい。グラミチパンツは、まさにそれ。
放っておいても、普通にカッコいいものであり続けるというか・・・。今だと、ファッションからグラミチに入って、掘っていくうちに背景がクライミングだと知り、それからクライミングに興味を持つっていう逆の流れがあっても全然いいなって思います。

―――クライミングだけでなく、日常生活でも活用していますか?

長野に移住してからは、スニーカーを履くより長靴を履く時間の方が断然長くて。だから、ワークウェアとしてもフル活用しています。コットンキャンバスの生地感もしっかりしていて、うん、最高です。
―――長野に移住したきっかけを教えてください。

犬の保護活動のためです。きっかけはもともと飼っていた犬が死んでしまったとき、子供たちがまた犬と暮したいと言って、葉山で犬の保護活動を行っている「KANAGAWA DOG PROTECTION(KDP)」を訪れて、猟犬の里親になったことです。猟犬ってけっこう扱いが大変で、奥さんはその後ドッグトレーナーの資格を取りました。
だんだん保護犬の現状もわかってきて、単純にもっとたくさん救いたいと思うようになったのですが、関東では犬を満足に走らせることもできなかったり、そもそも日本のドックランって柵が低いから、猟犬とかだと飛び越えちゃうんですよね。
それに、過去にどういった経験をしてきているかなどが分からない保護犬を、いきなり不特定多数の犬が遊びに来るオープンなドックランに放つのはリスクも大きいですし。そういうことで困っている人がたくさんいるだろうと思い、貸し切りで柵の高いドックラン「JAZZY DOG」を田舎の山に作ろうと思ったんです。

―――そこで選んだ場所が長野だったと?

「JAZZY DOG」があるのは、長野県小県郡長和町。ここは、標高が1000mくらいあって夏は涼しいうえ晴天率も高く、降雪量も少ない。また、人も少なく土地もたくさんあるので、ここには犬がストレスなく快適に過ごす環境が整っていました。ドックランだけでなく、人間が“犬の習性”を理解し、犬が“人間の社会”を理解するための出張トレーニングを行なっていたり、保護犬のシェルターも現在建設中です。

―――そういえば、ここTSSに「JAZZY DOG」のTシャツが置いてありました。

チャリティーTシャツとして販売しています。保護活動ってなんとなく、ネガティブなイメージを抱きがちですが、JAZZY DOGとしてはポジティブに発信することでイメージを少しでも変えていければと思っています。“何とか寄付をお願いします!”とかはやりたくなくて。自分達がいいと思うグッズを作ってそれを販売して、その収益を活動に活かしていきたいんです。

―――保護犬についての理解が、少しでも深まればいいですね。

はい。そもそもやりたいのは、啓発なんです。もちろん一頭でも多く救いたいんですけど、ただ救っても終わらない。人も犬も不幸になるパターンを変えたい。だから、時間はかかりますけど意識の変革に訴えかけていきたいと思っています。
―――最後にクライミングを通して伝えたいことを教えてください。

じつは移住した長和町でクライミングジムを作る計画が進んでいます。“スポーツで町を盛り上げよう”という観光協会のプロジェクトがあって、そこの人がボクがクライミングジムをやっているのを嗅ぎつけてくれて、相談を受けました。
長和町に和田中学校というめちゃくちゃ味があってカッコいい廃校があって、そこにジャジスポプロデュースのクライミングジムを10月8日のオープンを目指して作っています。クライミングジムだけでなく、スケートランプや3×3とかもあったらいいなって。
保護犬の活動をするためにこの町にやってきたのですが、クライミングを通してもこの場所で、セッションから生まれるグルーヴ感を共有していければなと思っています。
Photo:Kanta Nakamura(NewColor inc)

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