今やファッションとして日常に根付いているグラミチだが、ルーツは紛れもなくクライミングにある。それは、1970年代に“ストーンマスター”と呼ばれた伝説的ロッククライマー、マイク・グラハムによるクライミングパンツに端を発するブランドだからだ。本連載では、クライミングに心を掴まれたクライマーたちのメンタリティやライフスタイルに迫る。改めてグラミチの原点を辿る道標には、図らずも今を生き抜くエッセンスが内包されていた。
永田乃由季
永田乃由季
NAME
永田乃由季
TITLE
ルートセッター / イベンター
AREA
御岳ボルダー
PROFILE
1987年生まれ。東京都出身沖縄育ち。競技では日本代表にも選出され、リード・ボルダーとしてアジア選手権やワールドカップへの出場経験を持つ。現在は、ルートセッターやイベンターとして"競争"ではないクライミング本来の”楽しさ”を広めることに尽力。山、海、酒、レゲエを愛し、平和を願うクライミング界のボブ・マーリー。
会った瞬間こちらも思わず頬がゆるむ、ハッピーなオーラと独特の抜け感を纏った永田さん。できるだけ“軽装で気軽”を信条とする永田さんの持ち物は、ヨガマットとチョークくらいで「昼寝できるようにエアクッションは必須で!」と笑う。クライミングにはよく息子さんも同行するそうで、この日も虫取り網と大きめの虫かごを持って準備万端。奥多摩方面に位置する永田さんお気に入りのクライミングエリア、御岳ボルダーでお話を伺った。
―――クライミングを始めたきっかけはなんですか?

14歳のときに参加した沖縄の米軍基地で開催されていたフェスティバルです。500円で遊べる8メートルくらいのロープで登る壁が設置されていて。頂上まで登ると赤い丸いボタンがあって、それを押したら……“ビ―――ッッッ!”って鳴ったんです! その音を聞いたときの達成感がヤバくて。車のクラクションくらいの音量だったかな。うん、あの赤い丸いボタンにハメられて、完全にハマっちゃいましたね(笑)。
家から10分くらいのところに沖縄で唯一のクライミングジム『やまあっちゃークライミングジム』があったので、それ以来入り浸るようになりました。当時バスケもやってたので、放課後はクライミングとバスケの無限ループみたいな(笑)。仲間は年上ばっかりで、大学生とか米兵とかとよく遊んでましたね。

―――どのタイミングでクライミングを仕事にしようと思ったんですか?

もう、高校くらいのときにはクライミングで食って行きたいって思ってました。なんの根拠もなかったんですけど(笑)。当時から大会とかにも出ていたので、アクセス的にも東京が便利だなっていうのもあって戻ってきました。それからはクライミングジム『B-PUMP』でスタッフとして働きながら選手としても活動していて、国体やワールドカップにも出場できました。
―――永田さんのクライミングスタイルについて教えてください。

気負わず“散歩感覚”で楽しむことですかね。荷物もできるだけ減らしてラフにね。というかフリークライミングってそもそもそういうスタイルだと思うんですよ。一応クライミングシューズも持参してますが、実は登るときはほぼ裸足(笑)。岩のザラッとしたフィーリングを感じ取れるし、何にも頼ってない感覚が岩場と一体になれるようで好きなんです。もちろんクライミングシューズを履いたほうがグリップ力はありますが、裸足じゃないと引っかけられない溝とかもあって以外と機能的(笑)。
チョークバックも今日は、アウトドアブランドの防水パックで代用してます。極論、防水かつ結びやすさでいうとコンビニのビニールでも本当はいいかなって(笑)。まあ、それくらいラフな気持ちでいいってことです。もちろん、気合い入れて攻めるときもありますが、前日雨だったじゃないですか? 下手に登ると危ないので、これくらい気楽に今日は行くのがいいかなって。ちょちょっと登って、休んで、気が向いたらまた登る、みたいなのがちょうどいいんです。

―――クライミングとの向き合い方に変化はありますか?

昔も今も趣味みたいなもんなんで、なんにも変わってません! だから飽きることも、辞めようと思ったことも一度もないんです。ただ、昔は試合とかコンペによく出てましたけど、最近は少し離れた立場にいるというか。世の中が競技!競技!になっちゃってて、勝敗が最優先みたいな感じがどうなのかなって……。親の影響もあると思うんですけど、子供もその意識が強いんですよ。「あの子に勝ちなさい!」とか。コンペとか大会が前提になっちゃってる気がして、それは違うでしょって。
競技の面白さももちろん知ってますけど、楽しい!っていうのが本来のクライミングなんで。それでいうと、クライミングってやっぱり旅なんです。何人かグループでね。岩場に向かう道中でドキドキしたり、トラブルに遭遇したり、登ってる瞬間だけじゃないっていうか。で、岩場に着いたらそれぞれレベルも違うから、どう登ろうかって相談してそれぞれ楽しむみたいな。そこに勝敗もクソもない。あるのは楽しい!って感覚だけです。
―――御岳ボルダーの魅力ってなんですか?

まず都内から電車で来られるアクセスのよさですね。さらに、課題の数も100以上あって、カッコイイ岩場が多いんです。初心者から上級者までみんなが楽しめる場所なんじゃないでしょうか。クライミングだけでなく、キャンプや川遊びもできてロケーションも最高でしょ? あとは今日みたいに子供と一緒に遊べるのもいいですよね! 3ヶ月前くらいにもキャンプで来たぐらい気に入ってます(笑)。

―――その反面、過去に大規模なチッピング被害があったそうで?

そうなんです。グレード(難易度)を変えるために岩を削ったりするのがいわゆるチッピングで、ルート自体が消滅してしまったところもあります。あくまで自然の産物なので、登り終わったら登る前の状態に戻す。基本的なマナーとして、ブラシでチョークの跡をキレイにするのはみなさんにもやってほしいですね。
―――グラミチにはどんな印象を持っていますか?

昔からもちろん知っていて、よくショートパンツを好んで穿いてました。このガジェットパンツは、サイドにループが設けられているのでチョークバックを付けたりするのに便利。白色も登った後の跡が付いたりして、なんかワークパンツっぽくて気に入ってます。

―――実際に穿いて登った感じは?

動きやすい! で、コットンキャンバスのタフな生地感も好きですね。岩場ってやっぱりパンツが破れやすいんで有難いです。ジムだとナイロンとかの方がいいかもですけど(苦笑)、単純にこっちのほうがスタイルがあります。
―――ルートセッターってどんな仕事なんですか?

クライミングジムの業務は、大きく分けて“インストラクション”と“ルートセット”の2つです。インストラクションはその名の通りスクールの講師で、ルートセットはコースを作る仕事です。クライミングジムはコースが商品なので、コースが面白いかどうかで人の入り具合も全然違う。また、岩っぽい課題が多いとか、スポーティな課題が多いとかでも違ってくるんです。
『B-PUMP』で働いた後は自分でクライミングジムをやりたいなって思ってたんですけど、いろいろあって上手くいかず。そこからどうしようか考えてたとき、トレーニングで通っていた『ライノ&バード』っていう日暮里のジムが人を募集していたのでそこに所属して、ルートセットのノウハウを学びました。

―――いろんなジムからルートセットのオファーが来ていますが、どこがご自身で人気の理由だと感じていますか?

ん~、どこなんですかね(笑)。僕は大前提として“気持ちイイ”をテーマにしています。つまり、登っていて気持ちがアガったり、登った後のフィーリングが心に残ったり・・・。それを目指すために、ホールドの距離感とかホールドの向きには細心の注意を払いながら、とにかく楽しんでやってます。
―――クライミングを通して伝えたいことを教えてください。

とにかくクライミングの“楽しさ”や“面白さ”を広めたい。ルートセットもその一つの手段ですが、最近はイベントも主催するようになりました。この前、コンペにバーカン(バーカウンター)をセットしてずっと酒飲みながらMCしたんですけど(笑)、みんな楽しんでましたよ!
そうそう、11月18~19日に水源の森キャンプ場で『EARTH JAMMIM』っていうイベントやるんで是非! ボルダリングウォール以外に屋外映画館や野外ライブ、もちろんバーカンもセットしたり(笑)と、家族や仲間とキャンプをしながら野遊びを満喫できるようなイベントになる予定です。

―――子供にとっても自然と触れ合える最高の場になりそうですね。

子供たちには環境を大事にしよう!って伝えるよりも先に、自然を楽しむことを教えてあげるのが大事だと思っています。やっぱ野外教育でしょ(笑)? 今回は家族や仲間がメインですが、ゆくゆくは子供たちだけのイベントをやりたい。自分たちだけでテントを立てて、寝るところやご飯を作って。クライミングジムから飛び出して、キャンプをしながらクライミングもする、みたいな流れを作ってあげたいですね。

―――最後に、永田さん自身のクライミングにおける目標をお願いします!

単純にもっと岩場を巡りたいですね! 台湾とか! 未開拓の岩が結構あって、これからカルチャーになっていく場所なので。あ~、話してたら、今すぐ旅に出たくなっちゃいました(笑)。
Photo:Tetsuo Kashiwada(NewColor inc)

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